生成AIを社内データに対応させる手法としてRAG(検索拡張生成)がすっかり定着しました。しかし実際に運用すると、「複数の情報を組み合わせる質問に弱い」「全体を俯瞰した答えが返らない」といった壁にぶつかります。これをナレッジグラフで補強するのがGraphRAGです。本記事では、その狙いと仕組み、導入の勘所を解説します。

おさらい:RAGとその限界

一般的なRAGは、文書を細かく分割してベクトル(埋め込み)に変換し、質問に意味が近い断片を検索してLLMに渡します。手軽で強力ですが、本質的に「似ている文章を探す」仕組みであるため、次のような問いを苦手とします。

  • 多段の関係をたどる質問:「A社の担当者が関わった案件で使われた製品は?」のように、複数のつながりを順にたどる必要があるもの。
  • 全体像・集約の質問:「このプロジェクト群に共通する課題は?」のように、断片ではなく構造の俯瞰が要るもの。
  • 関係性そのものの質問:「誰と誰がどうつながっているか」を問うもの。

これらは、文章の類似度ではなく明示的なつながりを必要とします。まさにナレッジグラフが得意とする領域です。

GraphRAGとは

GraphRAGは、ベクトル検索に加えてナレッジグラフを知識源として併用するRAGです。質問に対して、似た文章だけでなく「関連する実体とその関係」をグラフからたどって取得し、構造化された文脈をLLMに与えます。これにより、断片の寄せ集めでは答えられなかった「つながり」や「全体像」の問いに対応できます。

仕組み

GraphRAGは大きく次の流れで動きます。

  • 1. グラフ構築:文書やDBから実体(人・組織・製品など)と関係を抽出し、ナレッジグラフを作る。近年はLLM自身に抽出させる手法も一般的。
  • 2. 検索:質問に関係するノードを起点に、つながりをたどって関連サブグラフを取り出す。ベクトル検索と組み合わせることも多い。
  • 3. 文脈生成:取り出したサブグラフを、関係が分かる形でテキスト化してLLMに渡す。
  • 4. 回答生成:LLMが構造化された文脈をもとに、根拠をたどれる回答を生成する。

さらに、グラフをコミュニティ(関連の強いまとまり)に分割し、それぞれを事前要約しておくことで「全体像」の質問に強くする実装も知られています。

ベクトルRAGとの比較

観点一般的なRAG(ベクトル)GraphRAG
得意な質問特定の事実・キーワード一致関係をたどる・全体を俯瞰する
根拠の追跡断片単位でやや曖昧実体と関係で追いやすい
構築コスト低い(分割と埋め込みのみ)高い(グラフ構築・設計が必要)
向くデータ文章主体・FAQ関係が重要な業務データ

両者は対立するものではなく、組み合わせて使うのが実務上の最適解です。手軽さのベクトル検索と、つながりに強いグラフを役割分担させます。

導入アプローチ

いきなり大規模なグラフを作る必要はありません。次のように段階的に進めます。

  • まずは一般的なRAGで始める:多くの質問はベクトル検索で十分。限界が見えてから次へ。
  • 関係が効くテーマを切り出す:顧客・取引・依存関係など、つながりが価値を生む領域に絞る。
  • 軽量なオントロジーを用意する:抽出する実体と関係の型を最小限で決める。オントロジーの設計がここで効いてくる。
  • LLMでグラフ抽出を試す:既存文書から実体・関係を自動抽出し、小さなグラフで効果を検証する。

実務での勘所

GraphRAGは万能薬ではありません。グラフの構築と維持にコストがかかるため、「関係性が本当に重要か」を見極めることが先決です。また、LLMによる関係抽出は便利な反面、誤りも混入するため、重要な領域ではオントロジーによる型チェックや人手の検証を併用すると安定します。スモールスタートで価値を確認しながら、対象を広げていくのが堅実です。

まとめ

GraphRAGは、ベクトル検索が苦手とする「関係をたどる質問」「全体像の質問」を、ナレッジグラフの構造で補強する手法です。ナレッジグラフとオントロジーという土台があってこそ真価を発揮します。生成AIを社内で本格活用する次の一手として、検討する価値は十分にあります。